ラウンズ専用の会議室に呼び出されたスザクは、表情を凍りつかせた。
これは悪夢かと思った。
だってありえないじゃないか。
大罪を犯したのだから、表になど出てこれないはずだ。
あの日、記憶を失い唯人となり、何もかも忘れた彼がその後の人生をどう送るかは聞かされていないが、地下牢にでも閉じ込め、一生日の当たらない場所で生きるのだろうと、漠然としたイメージがあった。いや、兄と妹を手にかけたのだからきっとそんなものではすまないだろうと心の片隅で思っていた。だが、それでいい。ユフィを殺したのだから、生き地獄に落ちろと、死よりも辛い苦しみの中で、ナナリーのことも自分が誰なのかも忘れて生きればいい。そう思うことで、彼のことを忘れるつもりだった。
だが、世の中はそう甘くは出来ていなかったらしい。
「彼は皇帝陛下より新たなラウンズとして任命されたキングスレイだ」
「お初にお目にかかる。皇帝陛下の命により、今日から貴公達と共に皇帝陛下の剣としてお仕えする事となったジュリアス・キングスレイだ。以後宜しく頼む」
ビスマルクに紹介された彼は、自らをそう名乗ると不敵に笑った。
敵の騎士となったことを嫌悪する事無く、自信に満ちた笑みを浮かべてる。目の前にいるスザクに対する罪悪感を感も、ユフィに対する後悔も感じられない。
そんな彼の姿に、心臓が凍りつく思いがした。
彼はラウンズの制服とは異なる漆黒の騎士服をまとっており、それはゼロの衣装を思い起こさせた。身体のラインが見える服、顔を半分隠している眼帯、そして黒いマント。どれもゼロを思い起こさせるには十分だった。ルルーシュが、いや、今ジュリアスと名乗った彼がゼロだと知っているからそう思ってしまうのか。
一体、これはどういうことなのだろうか。
スザクは目を細めジュリアスを睨みつけた。
彼を皇帝に差し出してからまだ一か月も経っていない。
それなのに、ほんの僅かな間に彼は、ルルーシュは再会した頃の幼さが消え、目をみはるほど美しくなっていた。妖艶さと傲慢さが増したような彼の姿に、反省の欠片も見えないその表情に、心の奥底に閉じ込めた憎悪が勢い良く目を覚まし、目の前が真っ暗になった気がした。
いつまたこの悪魔はその異能を使い多くの命を弄ぶか理解らない。
いや、その能力は皇帝が封じたんだ。
ルルーシュがルルーシュであるために必要な記憶とともに。
・・・ダメだ、頭が混乱している。
頭ではわかっている。ここにいるルルーシュは、もうルルーシュではないのだ。絶対に抗うことのできない悪魔の力で全て忘れた別人だ。ユフィを操ったモノと同種の力で心を殺されたルルーシュ。だから、別人なのだ。瓜二つの、別人。そう思わなければいけないのに、感情が暴走しそうになる。
「彼はナイトオブゼロの席を与えられた。」
「ナイトオブゼロですか？」
空席のナンバーではなく、ゼロ。
今まで存在していなかったラウンズの席名にモニカは眉を寄せた。
ラウンズは、ワン以外のナンバーに差はないと言われているが、それは違う。
皇帝を頂点とし、皇帝に近い番号ほど地位は上となる。
だから順位は1・12・2・11・3・10・4・9・5・8・6・7となり、スザクが最も低い。これは時計をイメージするとわかりやすいだろう。そこに、ゼロ。これはもしかしたらワンより皇帝に近い順位なのかもしれない。あるいは、円卓に席がないのか、12と同列なのか。
身分、地位、序列を重んじるブリタニア人にとって、この若者がどの位置にいるのかはとても大事な問題だった。
モニカの硬い声に、スザクはハッとなった。
そうだ、今ここには他のラウンズも揃っているのだ。
自分の挙動から、何かを怪しまれたら・・・自分と関係のあるもの、そう、ゼロに行き着き、彼がゼロだと知られればきっと問題になる。枢木の名からルルーシュに辿り着くものもいるかもしれない。それは危険だ。
平常心だ。精神統一をし、このドス黒い感情を押さえなければ。
それにしても、よりにもよって、ゼロとは。
陛下は、わざとゼロであった彼にゼロを名乗らせたのではないだろうか。
だから彼の服装も、どこかゼロに似ているのではないだろうか。
なんて悪趣味な
「キングスレイは陛下の騎士ではあるが、軍師としてラウンズに加わることになる。騎士としての戦闘は一切行わず、あくまでも指揮だけを取る。そのため、陛下は新たなナンバーであるゼロを授けた」
ラウンズは、肉弾戦もKMFの騎乗もこなし、指揮も取る。オールラウンダーな存在だが、キングスレイはあくまでも指揮のみ。異例中の異例といえる存在であるため、現存のナンバーを使用しなかったのだという。
「今後、貴公らは私の指揮下に入ってもらう」
不敵な笑みを崩すこと無く言う新入りの言葉に、彼の容姿に我を忘れていた面々も一斉に表情を改めた。帝国最強の騎士ナイトオブラウンズ。そこに上り詰めた者達を相手に、まるで見下すような、馬鹿にするような発言。いくら顔が綺麗でも、許される発言ではない。しかもまだ若い、子供と言っていい年齢の者にだ。
ラウンズはもともと全席埋まっておらず、現在は10代の若者がスザクを含め3人もいるが、このような態度はとらない。戦う力のない頭でっかちに馬鹿にされているようで皆不愉快げに彼を睨みつけていた。
そう、これが正しい反応だ。
君を、受け入れるものなどここにはいない。
君は、すべてを忘れ、精々軍師という駒となってここで生きればいい。
険悪な空気にビスマルクは珍しく落ち着きを失い、どうしたものか、どう仲を取り持つべきか考えているように見えた。いつも胸を張り威厳たっぷりなあのナイトオブワンがだ。元とはいえ皇子だから、気を使っているのだろう。
「さて、挨拶はすんだな。他に私がすべきことは何かあるか、ワン」
ワン。ナイトオブワンであるビスマルクのことだが、まるで犬扱いしているような錯覚を覚え、余計に周りの空気が悪くなった。
「いや、今日は顔合わせだけだが、彼らの紹介を」
「必要ない。知っている」
「・・・ならば、問題はないか」
「ああ、何も問題はない。私は下がらせてもらおう」
ナイトオブワンに対し敬意を払うこともなく、ナイトオブゼロ・ジュリアス・キングスレイは部屋を後にした。
***
1・12・2・11・3・10・4・9・5・8・6・7の序列の話は当然偽造。
（でも12はインペリアルガードを束ねているから、本編でも特別なのでは？と思ってます。）
7から順に繰り上がるのではなく、能力と血筋を考慮して席を与えられるため、ジノは最初から3を与えられている。ただし、後々席が変わる事もある。
マリアンヌは庶民出ということもあり皇帝から離れた6を与えられた。
アーニャはマリアンヌと同じ6を与えられたが、これは年齢的なものだろうと周りは見ており、後々席は繰り上がるものと考えられている。
